「♪今日は野菜のしゅうかっくび〜♪」
小津家長男蒔人は鎌やらシャベルやらが入った籠を背中に背負い、アニキ農場へと向かっていた。
しかし、蒔人を迎えたものはー
「な、なんだこれは‥」


「あ、お兄ちゃん軍手忘れてる。」
テーブルの上の白手袋の存在に麗がいちはやく気付く。
「本当だ。じゃ、芳香が届けに行ってあげる。」
「お願いね、芳香ちゃん。」
「任せて。マージ・マジュナ!」
芳香の体はピンクの光に包まれ、消えた。

「お兄ちゃん、発見!」
テレポートの魔法で農場に現れた芳香は兄を見つけて走り寄った。
「お兄ちゃん☆」
「どうした?芳香。」
「軍手忘れてたよ。ハイ。」
「あ、あぁ、ありがとう。」
あまり嬉しくない様子。
「どうしたの?」
「見てくれ…」
「!!」
二人の目の前には荒らされた畑があった。
作物という作物が食い荒らされ、芽が出たものまでがやられている。
「一体誰が…」
「こいつだ。」
蒔人の足元に、手ノリサイズの青虫がいた。
「こいつが俺の野菜達を…」
蒔人は片足を上げ、潰そうとした。
「待って!」
「芳香?」
「野菜を食べたからって潰すなんて可哀相!」
「これで今月の収入がパァになったんだぞ!」
「この子はお腹が空いてたのよ!芳香が面倒みるから!お願い!」 「…わかった。ただし俺はこいつの面倒一切みないからな。」
「うんっ!」
「それと。」
「何?」
「畑の片付けを手伝うこと。」
「はぁーい。」


新聞紙をちぎって水槽に敷き詰め、キャベツを入れる。
「姉ちゃん、今度は何拾ってきたんだ?」
朝食のパンを頬張りながら魁が訪ねる。
翼もコーヒーを飲みながら目だけを芳香へ向ける。
「じゃ〜〜ん!今日から家族の一員のあおむ君で〜す!」
芳香が取り出した青虫を見て、魁はパンを喉に詰まらせ、翼はコーヒーを吹き、麗は皿を落とした。
「な、何拾ってきてんだよ!」
「かわい〜でしょ?」
「きっ、気持ち悪い!」
「つうか、大きさが有得ねえι」
「虫は僕ちんの天敵でございますです〜!!」
マンドラ坊やは泣きながら翼の後ろに隠れる。
「ヒカル先生が帰ってきたらみせてあ〜げよっと♪」
うかれる芳香に対して蒔人はうかない顔だ。
「そいつが作物を荒らしたせいで今月の収入はゼロなんだぞ?」
と漏らせば
「「「え〜!!」」」
と青黄赤がハモり、
「ってことは、また節約!?」
「絶対ヤダ!」
「同じく。」
次女の言葉に三男と次男の意見が珍しく一致する。
いつもの小津家の風景だ。

とその時、メメの鏡から声がした。
「助けて!」
「!」
「出動だ!」
五人は現場へと向かった。

そこは道路に面した林だった。
「大丈夫!?」
「あ!魔法使いさんだ!」
そこにいたのはランドセルを背負った女の子。
変わったところは特にない。
「でもさっき、助けてって‥」
「鳥さんが急に飛び出してきたからびっくりしただけ。」


マジレンジャーは家へと帰ってきた。
「なんだったんだ?」
「何も無かったように見えたけど〜?」
「だったら鏡が反応するわけないだろ。」
「出てきた鳥が冥獣だったとか‥」
「かもしれない。占ってみる!」
麗は水晶玉の前に座り、占いを始めた。



「出たわ。」
みんな麗の机の前に集まる。
「これは‥林?卵‥?」
「曖昧だなぁ。」
「魁、黙ってて。…ここは‥わかったわ!みんなついてきて!」

麗に先導され、来たところはさきほどとは別の林。
「水晶玉に浮かんだのは確かここ‥。‥!、あれ!!」
麗の指した先には通常の何倍もの大きさの青虫。
「あおむ君の仲間かな〜?」
と芳香が近づく。
そんな芳香に向かって、青虫が口から糸を吐いた。
「キャ────!!」
芳香の体に糸がからみついていく。
「芳姉!イエローサンダー!」
マジイエローの必殺技を受け、青虫は黒焦げになった。
「芳香、大丈夫か!?」
「う〜、べたべたする〜」
「さっきの青虫って‥」
「冥獣に違いない!」
悩む弟に即答する長男。
「え〜!あおむ君が冥獣?」
「やっぱりあの時に潰しておけばよかったんだ。帰るぞ。」


─小津家─
ヒカルは散歩から帰ってきた。
テーブルの上にはかつて自分がいた水槽。
その中には青虫。
「こいつは…!」
「あおむ君でございますです。」
即答するマンドラ坊や。
「…芳香が拾ってきたのか。」
マンドラ坊やにいきさつを聞いたヒカルは水槽の中から青虫を取り出す。
水槽の中のキャベツは少しだけ減っていた。
「そうか‥。だが今回はそれでよかった。」
「?」

そこへ帰ってくる五人。
「ヒカル先生、大丈夫!?」
芳香が駆け寄る。
「それ、冥獣だろ?」
魁が続く。
「あぁ、知ってるよ。これは冥獣人ピクシーの仕業だ。」
「冥獣人ピクシー!?」
「その前に、ゴルド。」
ヒカルがグリップフォンを蒔人に向け、衝撃波を放つ。
すかさず魔法で椅子を動かし、蒔人を座らせる。
「ゴルダ。」
グリップフォンから光の粒子が飛び出し、蒔人の周りをくるくると廻ったかと思うと縄になり、蒔人を縛りつけた。
「な、何するんだ!」
「この青虫は冥獣人ピクシーの子供だ。」
全員、沈黙。
「孵化した幼虫はこの大きさになるまで植物を食べ続ける。」
「近くを大型の動物が通ると糸で絡めて捕捉する。」
「捕捉したら、どうするの?」
芳香の問いにヒカルは静かに答える。
「中身が入れ代わってしまう。」
「入れ代わるって…」
魁の言葉にみんなは蒔人に目をやる。
「俺のどこが入れ代わったように見えるんだ!」
「確かに入れ代わったようには見えないけど‥」
「それはだね、麗。記憶や性格ごと移されているからだよ。入れ代わった後の幼虫は極端に少食になる。マンドラ坊やから聞いた話とこれを見て気付いたんだ。」
「何言ってるんだ!俺は俺だ!」
「幼虫自身もピクシーが喚ぶまで自覚が無いんだ。」
「な………!」
「麗、ピクシーの居場所をつきとめてくれ。」
「うん。」


とあるビルの上に美しい蝶の羽根を持った女が降り立つ。
きらびやかな体とは裏腹にその顔は蝶そのものだ。
「どう?フェイア。」
蝶の女の横にこうもりの羽根を持った女が降り立つ。
黒色の、挑発的な体とは裏腹にその顔はこうもりそのものだ。
「ほとんどの幼虫が蛹になったようだ。」
フェイアと呼ばれた女が答える。
「冥獣人ピクシーのフェイア。」
こうもり女─バンキュリアの声が二重になる。
「町中に卵を撒き散らし」
「孵化した幼虫は回りの植物を食い荒らす。」
バンキュリアのいた所には二人の少女がいた。
「しかも大きくなった幼虫を見た人を繭に閉じ込めて」
パンク服の少女が言い始め、
「その人と入れ代わっちゃう!」
ゴスロリ服の少女が締め括る。
「フェイアが召集をかけると幼虫は我を取り戻し、」
パンク服の少女がナイ
「入れ替わった蛹を破って羽化しちゃう。」
ゴスロリ服の少女がメア。
「「フェイアの兵隊を増やして人間たちを殺しちゃえ計画!」」
仲良くハモる。
「さあ、フェイア。蛹を孵化させなさい!」
「させなさい!」
「は。」
「そこまでだ!」
フェイアの返事と制止の声は同時だった。


インフェルシア勢の前に五色の魔法使いが現れた。
「あれ?緑君はどうしたの?」
「どうしたの?」
そう、ナイとメアの言葉通り、五色といっても赤青黄桃金だった。
「おっお兄ちゃんは忙しいのよ!」
「そうだ!兄ちゃんがいなくても大丈夫だぜ!」
(魁‥それはちょっとι)
ヒカルが言う前に四人はナイとメア、そしてフェイアに向かって走り出す。
「かかってらっしゃい!!」
ナイとメアは合体し、バンキュリアとなる。
その脇を駆けていく四人。
「どっ、どういうこと!?」
四人の背に向かって攻撃しようとするが、そこにヒカルが滑り込む。
「君の相手は僕がするよ。」
「ふん、なめられたものね。」

桃と青の攻撃をフェイアは両手で受け止めた。
それに続く赤と黄の蹴りを二人を盾にすることで防ぐ。
「「きゃああっ!!」」
「姉ちゃん!」
「姉貴!」
「貴様ら、弱い。」
「なんだと〜!!!」

「あら?五人そろわないとこんなにも弱いのね。」
「そんなわけないさ!」
バンキュリアの言葉に反論するも、ヒカルには一抹の不安があった。
四人の戦いは本気モードになった魁のパンチが決まり、形勢を逆転しつつある。

「マジカルショータイム!!」

たぶん四人でも今の敵は倒せる。

しかし───




「フェイア、踏み潰しておしまい!!」
「ちっ!」
ヒカルの攻撃の隙をねらってバンキュリアは巨大化の魔法を放つ。
「巨大化か!兄ちゃん姉ちゃん、魔神変身だ!」
[マージ・マジ・マジカ!!]
魔神化して巨大化したフェイアに立ち向かう四人。
しかし、先程のようにうまくいかない。
「くっそ〜!!こうなったらマジキングになって…」
「待って魁!お兄ちゃん無しで合体はできないのよ!」
「あ‥」
ヒカルの不安はこれだった。
マジキングにしてもマジドラゴンにしても体となるタウロス・蒔人がいなければならない。
しかし自分は妖幻密使の相手で手いっぱい。
いっそのことトラベリオンをスモーキーに任そうか…


そう思った時である。


「みんな、待たせたな!」
聞き慣れた声がした。


「兄ちゃん!?」
「兄貴!?」
「お兄ちゃん!?」

そこには蒔人がいた。
「皆が戦ってるのに、俺だけ戦わないわけにはいかないさ。」
そう言い、マージフォンを握る。
「マージ・マジ・
「駄目だ!」
マジシャインが変身呪文を遮る。
「記憶も蒔人のものとはいえ、君はピクシーの幼虫だ。変身はできない。」
「だからと言ってインフェルシアを放っておくわけにはいかない!俺が本当に虫だとしても、この気持ちだけは本物なんだ!マージ・マジ・マジーロ!」
蒔人の体を緑の光が包み込み、マジグリーンへと変身した。
「なんですって!」
「ありえない。」
眼の前で起こったことにインフェルシアが驚きの声をあげる。
「幼虫は入れ代わった人のすべてをコピーする‥幼虫には自覚が無い…入れ代わっていても彼は蒔人なのか‥」
マジシャインがこぼす。
「ならば覚醒するがいい。」
フェイアの触覚に力が集まる。

ピポポッ ピポポッ…
蒔人のマージフォンが鳴る。
「自分が何者であっても戦う‥その勇気に魔法が応えたんだ。」
マジシャインの言葉にマージフォンを見る。
「‥よし。」


蒔人が新呪文を唱えると、マージフォンから無数の葉が飛び、フェイアの触覚を切り落とした。
「ぐあっ!」
触覚に集めた力が暴発し、火花を散らす。
「き‥貴様何をする!!くっ、これでは召集が…!食らうがいい!」
怒心頭のフェイアは蒔人を右足で踏み付ける。
しかし
「マージ・マジ・マジカ!」
マジタウロスへと魔人変身したため、逆に転ばされてしまう。
「マージ・ジルマ・マジ・ジンガ!」
その隙に五人はマジキングへと変身を遂げる。
「なめるな!」
フェイアが大きく羽ばたき、真空波を作り出すが、触覚を失ったためか狙いが定まらない。
マジキングは一気に距離をつめ、
「天空魔法斬り!!」
フェイアを一刀の下に切り捨てた。


「やった!‥‥ん?うわっ!」
フェイアをやっつけた瞬間、魔人合体がとけ、マジレンジャーは地面に投げ出された。
「いって〜‥」
「合体が…。」
「何何?何が起こったの?」
「フェイアを倒したから幼虫も消えた。そういうことだよ。」
ヒカルが説明する。
混乱していたマジレンジャーの中に蒔人はいなかった。
「帰ろう。」


ー小津家ー
蒔人は魔法部屋のベッドに寝かされていた。
マンドラ坊やとスモーキーの話によると、フェイアが倒された後、水槽の中のあおむ君が光ったと思うと、すぐ近くの床に蒔人が倒れていたと言う。

「ん…」
蒔人が目を覚ました。
「お兄ちゃん!」
「兄貴!」
「兄ちゃん!」
「!!??どうしたんだみんな?あれ?畑にいたはずなんだけどな。」
蒔人の復活を喜び、芳香は妹弟を置いて部屋を出た


「芳香。」
「ヒカル先生!?」
芳香は庭にいた。
見ると水槽の中に入れたキャベツや新聞紙を土に埋めているようだった。
「あおむ君のお墓!」
とヒカルに答える。
「少しの間だけど一緒に戦ってくれたから。」
「…そうか‥手伝うよ。」
二人は黙ってお墓を作った‥。


fin



「今日の呪文は蒔人ちんというか、あおむ君が唱えた呪文でござりますです。 何でも切り裂く葉っぱでござりますです。」
「そんな技発動しないぞ?」
「どうやらあおむ君専用の技だったようでございます。 ですが、僕ちんにもあんな技があったら…(ちらりとスモーキーを見る)」










執筆時間の長い話でした。
初のマジレン話です。
兄貴が好きなので活躍させたのですが、よく考えたら中身青虫だった……(笑)
完成日:2006.01.09
金籠収録:2009.07.26