昔々あるところに…猿雪姫という王女がいました。
猿雪姫=猿野
「ちょっと待て!!猿雪ってどんな名前だよ!」
こう叫ぶのは本人である猿雪姫。怒ってもナレーションにはまったく効果ありません。
この国にはお妃さまも存在していました
妃=辰羅川
「存在…まぁ、いいでしょうι」
お妃は魔法の鏡に向かって問いかけます。
「鏡、世界で一番インテリジェンスな人は?」
鏡=沢松
「ハイそれはあなたです。」
「フェイマスでポピュラーな方は?」
「あなたです。」
「フーリッシュな人は?」
「サル雪姫です。」
このようにいつもの質問が始まる。
妃を立てた回答をすれば彼女は満足するため、鏡はいつもそのように回答していたが、それにももうウンザリしていた。
「ビューティフルな人は?」
お決まりのこの質問に、鏡はこう答えた。
「あなたです。でも今日のサル雪姫は一段に美しいです。」
「…なんですって?」
妃の眼鏡が光を放つ。彼女はおおよそ知的とはかけ離れた巨大なハンマーを振り上げた。
ここで鏡は回答として最悪な人物を挙げたことに気づいたが、撤回する時間は得られなかった。
「『あの馬鹿を葬りなさい!』とか言われちゃったっすよー。」
家来(子津)はため息をついた。
とりあえず彼は姫を散歩に誘い、馬の後ろに乗せ城の外に出た。山の方へ向かい、辺りに生い茂る木もだんだん増えてくる。
とりあえず人気の無いところまで来たっすけど…今まで仲のよかった姫を殺すだなんて…
彼の悩みなどつゆ知らず、猿雪姫は彼に話しかける。
「こんなところまで連れてきて…もしかして、愛のコ・ク・ハ・ク?」
姫は思わせぶりに、家来の耳に息を吹き掛けた。
家来の全身に一瞬にして鳥肌が立つ。
「うわあああぁぁぁ!!!」
絶叫をあげ、家来は姫を振り落とし逃げていった。
家来は逃げた。走って走って走り続け、疲れてヘタりこんだとき、大切なことを思い出した。
『あの馬鹿を葬りなさい!』
「うわあぁ!逃げてしまった!!!『必ず心臓を持って帰ること』って言われてたのに!!!」
しかし騒いだところで解決にはならない。とは言え森から出てしまい、猿雪姫がどこにいるかなど解らない。
彼は家畜で代用しようと思いつき、豚を買った。解体用のナイフを手に持ち、豚を前にした。
「………」
「猿野く…猿雪姫は崖から落ちてわかんなくなったっす!」
「そう、ご苦労。」
家来は証拠品無しで虚偽の報告をした。結局豚を殺せなかったのです。
「子津のヤローなんてことしやがる。」
猿雪姫は馬から振り落とされた際に落ちたかつらを拾い、かぶった。
次いで立ち上がるとドレスの汚れをはたく。
このままここにいるわけにもいかないので森の中をフラフラとさまようことにした。
歩いていると、茂みの向こうに家が見えた。
「……よし!」
何かを決意した猿雪姫は勢い良く家のドアを開けると叫んだ。
「手を挙げろー!!!!!!」
と同時にバズーカをかまえる。
家には七人の小人(兎丸×7)たちがおり、彼らは同時に床に伏せた。
バズーカからは「スカッ」と気の抜けた音がした。
つまりは不発弾…。
猿雪姫は小人に捕らえられてしまった。
猿雪姫は事情を話した。
「住むところがなくて…泊めてくんねぇかな?」
と最後に懇願することも忘れない。
7人の小人のうち、眼鏡をかけた小人は言った。
「お姉ちゃんは何か得意なことってある?」
交換条件ってヤツかよ…と疑い、「力仕事だな。体力なら誰にも負けねぇぜ。」と言う。
次の日、小人たちは仕事である採石のため、鉱山へ出掛けていった。
「いってきまーす!」×7
その言葉の先には桶を肩にかついだ猿雪姫がいた。
猿雪姫の仕事は水汲みになったのです。
今日の夕食は台所の説明も兼ねて小人が作りました。
「じゃあ、始めるよー。」
眼鏡をかけた小人(先生)が仕切る。
「えーっ、ねむーい。」
「汚れたり匂いがつくようなことはしないよー。」
眠そうな小人(ねぼすけ)と睫毛の長い小人(お茶目)が答える。
「塩加えるよー。大さじいっぱーい!」
ひとり(おとぼけ)が白い粉末を大さじに山盛りいっぱい取る。
「いっ、いっぱいって意味が…違…」
ひとり(はにかみや)が顔を赤面させながら言う。
「ってゆーかそれ砂糖の容器じゃん。」
ひとり(怒りんぼ)が怒気のこもった声で言う。
「火傷したーっ!」
ひとり(泣き虫)が大げさに騒ぐ。
…ブチッ
「あーっ、ややこしい!テメーラ全員名前書いちゃるわ!!」
姫はどこからともなくマジックを取出し、騒ぐ小人の帽子にそれぞれの性格を書きだした。
家来の虚偽報告も空しく、お妃は猿雪姫が健在であることを知りました。
「猿雪が生きているですって!?…ならば私のマジックで!」
妃はそう言うと美少女(鳥居)に変身した。
「これなら私と判らないでしょう。」
鏡の前でポーズを取る。
「もう一生その姿でいいんじゃないですかー?」
鏡の軽口に妃は靴底で答えた。
小人たちの住む家の戸を叩くと
「いらっしゃ〜い!!」
突然現れた美少女に猿雪姫のテンションが上がり、ものすごい形相で妃に襲いかかってきました。
「きゃあああああぁぁぁぁ!!!!!」
驚いた妃はとっさに猿雪姫の頭にくしを刺した。
そのくしは髪にさすと気絶してしまう危ないくしで、さすがの猿雪姫もばったりと倒れてしまいました。
「た…たすかりましたか。ふふっ、これで私がこの世で最もビューティフルな女性ですね。」
ご機嫌になった妃は意気揚揚と帰っていきました。
帰ってきた小人たちが猿雪姫を見つけました。
「あっ!姫が死んでる!」
「どっ、どーしよー。」
「水かけるとか?」
「お湯にがいいよー?」
「からしを塗るー!」
「電気ショックはどう?」
「顔を叩く!」
「そんなことよりおなか空いたー。」
「坂を転がすのは?」
「どっか捨てる?」
「燃しちゃえば?」
泣きベソ、シャイボーイ、メガネ、ねぼすけ、マセガキ、ぼけ、キレてる君となづけられた面々の相談は姫を起こす方法からだんだん処分法へと発展していくのでした。
そのうち、小人の一人がくしを発見。
興味本位で抜いてみたところ、猿雪は元気になりました。
「おのれ!今度こそ猿雪をKILLするのです!!」
それを知った妃は寡黙な家来(司馬)に命じ、たくさんのりんごが入った籠を渡しました。
「ふふ‥食い意地の張った猿雪のこと、必ず中の毒りんごまでイートするでしょう。」
しかし、かごの中の毒りんごはひとつだけでした。
家来はたくさんのりんごの中からひとつを取出しつぶやきました。
「?」
彼にはどれが毒りんごだったのかわからなかったのです。
森の中で家来はみみずがのたくったような道筋で描かれた地図(妃作)を見、前方を見ました。
目の前にひとつの家が建っています。
家来はその家が目的地だと理解しました。
ちょうどその時、狩猟に行っていた小人たちが帰ってきました。
「君、誰ー?」
「あー、りんごだー。」
「ほしーい!」
「ちょーだーい!」
家来の周りにわらわらわらわらと小人たちが集まる。
そうして騒いでると
「おめーら、家の前で何してんだよ。」
と猿雪姫まで出て来ました。
「りんごのおすそわけだってー!」×7
「はーん、俺はてっきり出張保育園だと思ったぜ。」
「とってもおいしそうなりんごだよ。」
小人の一人がりんごをひとつ手に取り、シャリッといういい音をたてりんごをかじりました。
「!!」
もしかしたらそれがあたりかもしれない!と家来は慌てますが、
「おいし〜い★」
「甘〜い☆」
「シャリシャリしてる〜★」
と、彼らの取ったりんごはすべてハズレでした。
「ホッ」
「お猿のお姉ちゃんも、ホラ!」
小人は猿雪にりんごを差し出した。
「たしかにうまそうな色してんな。」
猿雪姫はりんごをかじった。
シャリッという気持ちのいい音を立てて、りんごが食される。
「ん〜〜マジうま〜〜い♪」
そういう言葉とは裏腹に、猿雪姫の顔色は青ざめていく。
そしてそのままうつぶせに倒れこみ、その下からは血が流れだしました。
猿雪姫は死んでしまったのでしょうか…?
「やっと猿雪を葬りましたね。」
鏡で様子を見て妃はニヤけている。
「そういえば、捜索願が出ている犬飼王のことなんですが。」
鏡が急に話を切り出す。
「なにかわかったことが?」
「どうやら、猿雪たちのいる森にいるみたいです…」
「なんですって!!」
驚きすぎた妃はついシェーッのポーズをとってしまった。
犬飼王とは…
隣国の王(独身)です。
猿雪姫の継母である辰羅川妃(未亡人)は彼に好意を寄せています。
犬飼王もまた、森をさ迷っていました。
「どこだ?ここは…」
実はこの森は富士山もメじゃない樹海だったのです。犬飼王は見事にハマッてしまったようです。
犬飼王の視界に一つの家が現れました。なにか騒いでいるようです。
「何かあったのか?」
犬飼王は話し掛けました。
「あっ、王子さまだ!!」×7
小人たちが一斉に叫びました。
「お‥王子……?」
その言葉に猿雪姫は息を吹き返し、飛び上がるように起き上がりました。
「結婚してー!!」
「生き返った!?」
その様子に全員が驚いたとか。
「死んだって縁起の悪りーこと言うなよ。あのりんごがうますぎて顔の穴全部から血を噴いただけだ!!」
猿雪姫は「ぬ」のハンカチで顔を拭きながら説明をしました。
どう考えても異常です。
「でもお姉ちゃんのりんご毒りんごだったかもって。」
小人が姫に説明します。
家来が毒りんごのことを白状しましたが、りんごは全て食べられており、もしかしなくとも猿雪姫の食したりんごは毒りんごでした。
「毒?ああー大丈夫だ。なんてったって俺の胃はピロリ菌も溶かしちまうからな!」
「何!?」
毒りんごに耐えた猿雪姫の言葉は全員にとって上段には聞こえませんでした。
「ところでお前外から来たんだろ?帰り道教えてくんねぇか?」
なんとかして城に帰りたい猿雪姫です。王様にお願いをしてみましたが、
「フザケンナ。」
と無情な言葉を返されてしまいました。
それでも諦められない猿雪姫です。今度は思いつく限りのセクシーなポーズを取って
「お・ね・が・い」
と詰め寄りました。
これが更に王の神経を逆なでし、
「ブッコロ。」と言われる始末。
それも無理はありません。犬飼王は猿雪姫に一目惚れならず一目嫌いしてしまったからです。
「どーしても嫌だって言うんだったらこうだ!」
そう言うと猿雪姫は土下座をした。
「無駄だな。」
そこへ第三者の声がしました。
「なんだとテメー。…ってなんじゃこりゃあ!」
猿雪姫の視線の先には人面馬(羊谷)がいました。
「馬がおめんかぶってたー!!」
小人たちはパニックですが、それに対して馬は「悪りぃかよ。」と冷静に返します。
実はその馬はとても貴重なので城で飼われていたのですが、不憫に思った馬子が馬のお面をかぶせて逃がしたのです。
「今日は乗馬がしたいな‥。」
ちょうどその日、王はそう思いながら散歩をしていました。
「ん、ちょうどいいところに馬がいるな。」
そこをたまたま人面馬が走り、これ幸いと人面馬に乗ったのでした。
馬にとっては迷惑以外の何者でもなく、「勝手に乗んじゃねぇ」と王を振り落とそうと暴走したのでした。
しかし王を落とすことができず、気がついたらこの森にいたということでした。
全く困った王ですね。
「そんなことより私を玉の輿にしてー!」
と言い出す猿雪姫。
対して犬飼王はあからさまに嫌な顔。
「結婚しやがれコラァー!」と脅してみますが、犬飼王から出た言葉はこれでした。
「お前と結婚するぐらいならアカイボマダラオオサンショウウオの方がましだ。」
「さっサンショウウオに…負けた…!!??」
さすがの猿雪姫も、サンショウウオに負けたのはショックだったようです。
「…慌てない…慌…てな…い」
かすれた声でうわごとのように呟き、どうしたら結婚できるか考えました。
そーだ規制事実だ。と彼は脳の中で合点し、
「つーわけでくらえぃ!!」
と犬飼王に飛びかかりました。
(犬)「!!!」
妃は魔法で猿雪たちのいる森にやってきました。
「猿雪の住んでいる家はこの辺のはずでしたね……」
「………!!!」
藪を抜けた妃の視界の先にはキスをする姫と王が…!
妃の眼鏡のレンズが派手に砕け散ります。
「こんなっ、こんなテリブルなことが………この世のエンドですっ!!」
お妃は二人に背を向けて走り去っていきました!
「この世のエンドですっ!」
遠くからそんな声が聞こえ、何かが茂みの中を遠ざかる音がしました…
猿雪姫はそれが妃のたてた音だと瞬時に理解しました。
あいつ覗いてやがったな…ま、キスもしたことだしこれで晴れて結婚ってことで♪
そう思いながら猿雪姫は犬飼王から離れました。彼は…泡を吹いて倒れました。
「のわわわわわわっ!……殺しちまった‥」
さすがの猿雪姫も驚きます。猿雪姫と違って彼はマジに死亡してしまいました。
「なんとアンビリーバボーなことでしょう…」
妃も世をはかなんで命を断ってしまいました。
猿雪姫は何とか森を脱出しようとしましたが、
「お姉ちゃんお帰りー」
といった具合に何度も小人たちの家に戻ってきてしまいます。
無口な家来は脱出自体を考えず、小人たちと定住することにしました。
どちらにしろ、家来の報告で猿雪姫は死亡扱いですけどね。
「じゃ俺はとっくに去雪姫じゃねーかよ!」
とりあえず本編終了
おまけ〜家来のその後
猿雪姫の無事がわかった後、家来・子津はお妃に呼ばれました。
「お妃さま、お話とは…?」
「鏡から聞きました、猿雪を殺せなかったようですね。」
お妃は勢い良く家来を指差した。
「というわけであなたの仕事は馬子にダウンです!明日から馬小屋で働きなさい。」
「そんなぁー。」
「えーと新しく馬子になった子津君だね?」
馬子の牛尾が笑顔で出迎えてくれました。
「はっ、はい。よろしくお願いします!」
「まずは馬たちを優しく洗ってあげようね。」
馬子は家来にブラシを渡し、言いました。
「彼らは僕達の恋人だからね。」
「ええ〜っ、恋人!?しかも僕『達』!?」
しばらくして
「どうしてそんなに一所懸命なんですか?」
家来は馬子に尋ねました。彼の仕事はとても大変です。
「僕たちにとって馬はとっても大切だよね。遠くに行くときなどとても活躍してくれる。馬はね、走ることが大好きなんだ。
そして良い馬ほど気持ち良く走れる。だからみんな良い馬にしてやりたいんだ。
恋人には良い状態でいてほしいし、少しでも彼らへの恩返しになるといいなと思ってね。」
「せっ先輩!僕一生ついていきます!」
こうして家来・子津は馬子になった。
そして持ち前のがんばりを活かし一生懸命働いたそうな。
おしまい
猿雪姫。猿野総受け小説ではなくってよ(笑)
基本はギャグ。原作に忠実に。
もともと四コマだったものを書いたわけですが、今見返すとわかりづらい;;
なので小説らしく書き直し、各キャラにさせていたナレーションもばっさり切りました。
人面馬のくだりを鹿目にさせたときの、「あんな馬、僕だったらいらないのだ」というナレーションはお気に入りだったのですが(笑)
作成日:2003.10.01
金篭収録:2009.07.26