局長室直前の床にエースは叩きつけられた
ひりひりとする痛みをこらえながら、なんで俺がこんな目に会わなきゃなんねーんだ、たいしたことなかったらぶっ殺してやる、など脳内で愚痴りエースは局長室のドアを開けた

パシンと乾いた音と共に、魔力を制御する左耳のイヤリングが弾け飛んだ

「早く閉めて!」
というゼノンの言葉に反応し、咄嗟にドアを閉めると来客用の椅子の後ろに隠れた
部屋の中を雷が飛び交い、真ん中にある来客用のデスクの上で赤ん坊が泣いていた

「ゼノン!今度は何したんだよ!」
文化局+ゼノン+爆発→実験の失敗という方程式から、ゼノンがまた何かやらかしたと思い、エースはゼノンに問う
しかし局長室の奥の机からは
「私は何もしてないよー!」
という応えが返ってきた

冷静に状況を見ると飛び交う雷は部屋の中央、赤ん坊が発していることに気づく
「じゃあ何なんだよこいつは!」
「雷帝の子!」
「はァ!?何でこんなとこにいるんだよ!」
ゼノンの隠れている机に視線を移す
急に視線を動かしたために制御のできない魔力が視線を通じて飛び、机の角から煙が上がる
雷と勘違いをしたゼノンは「ひぃぃ」と小さく叫び、静かになってしまった
やべ、とエースは視線をゆっくりと壁にやる


「……で、何で泣いてんだよ!?」
「わかんない!ミルクも上げたし………あー!おむつかも!」
「おむつぅ!?」
いまだ泣き続ける赤ん坊を振り返った
魔力のことを思い出した時には赤ん坊に焦点が合い、魔力が飛んでいた
しかし赤ん坊は大きな口を開けると、その魔力を飲み込んだ

「……………」
「……………」

赤ん坊は未だぐずってはいるものの雷を発すのをやめ、二名は沈黙した
「し、静かに、なった……」
ゼノンが安堵した声で言う
「魔力を…飲みやがった…」
エースは驚きを隠せなかった

「「! おむつ!」」
一つのことを思い出し、二名は駆け寄る
脱がせてみれば案の定で、刺激臭が鼻をつく
ゼノンは替えのおむつを持ってきたものの、見ているだけであった
彼を放っておいてエースは手際よくおむつを替える
腹いせに汚いおむつをゼノンに投げつけたが、彼はバリアでうまく包み込んだ

「できたぞ、ほら」
ゼノンがおむつをゴミ箱に捨てるのを見て、赤ん坊を彼に返そうとする

が、赤ん坊は離れなかった
エースの腕にしっかりとしがみつき、更に腕をあむあむと食べるような素振りを見せる
と言うか、腕からエースの魔力を吸っていた

「魔力が足りてなかったのかな〜?」
赤ん坊の頬をつつきながらゼノンが言う
「魔力か…」
直接授乳することで赤ん坊にも魔力がいくのだが、時間が経った乳や粉ミルクでは魔力はあまり摂取できない
「せっかくだからいっぱい食べさせてあげてよ」
「お前も有り余ってるだろ?」
軽口を叩いたけれど、制御装置が壊れたために無駄に漏れた魔力を消費してくれることは有り難く、ゼノンが制御装置を持ってくるまで赤ん坊に魔力を与え続けた






終わる








雷帝の子、はもちろんあの方。
D.C.11(2009).07.26