『エリア○○にて天使の斥候団を発見。国境警備隊は即刻排除に向かいたまえ。』
魔力球が着弾し、土煙が巻き上がる。
直撃した者はいないが、ソレに視界を奪われる。
砂塵の向こうに敵の気配を感じ、手にした斧を振り下ろした。
「っあぎゃあぁぁあぁぁああぁぁぁ………!!!!!」
断末魔、いや断末天が響き渡る。
美しく上品に繕っていても、死に際が下品では無様としか言いようがない。
砂塵を切って倒れこんだ天使の身体がビクビクと痙攣するのを見下ろし、その死を悟ると、悪魔―ゾッドは斧を構えなおし、視線を前へと移した。
切り立った高い崖。その周りは悪魔の森。
少数の天使の斥候団と多数の悪魔の警備隊。
戦局は明らか。
突風が吹く。
砂の煙幕を晴らすため、味方の誰かが魔力で発生させたのだろう。
土煙が晴れた。
瞬間、一閃の光が悪魔の目を焼き、轟音と共に爆発が起きた。
最前線で戦っていた者たちは、ある者は光に焼かれ、ある者は爆発に巻き込まれた。
前線で果敢に戦っていたゾッドも、爆発に巻き込まれはしなかったものの吹き飛ばされた。幸か不幸か崖っぷちで何とか踏みとどまる。
爆発を起こしたであろう天使を睨みつける。
天使の顔には余裕の笑み。
数では警備団の方が圧倒的に多い。
なのに余裕の笑み。
戦闘は数十分ほど続いていた。
斥候団も警備団も幾人かの同胞を失っていた。
天使というのは慈悲深く、仲間の死を悼むとある。
だのに余裕の笑み。
今のまま戦闘が続けば斥候団の敗北は明らか。
逃がすつもりも毛頭ない。
それでも余裕の笑み。
なにか起死回生の策があるのかもしれない。
だから余裕の笑み?
しかし、笑っているのはそいつ一人だけ。
理由は分からないが、その穏やかな、かつ冷たい嗤み(笑み)にゾッドは侮辱されたと感じた。
頭の中で、そいつの首に切断予定線を描き込む。
飛び込もうと斧を構えなおしたところを、天使の放った光線がゾッドの腹を貫いた。
身をよじって、ど真ん中直撃を避けたものの、斧という重い武器を持っているため完全には避けられず、右脇腹を持っていかれた。
バランスを崩して左によろけるも、なんとか踏みとどまる。
突風が吹いた。
今度は天使の放った風。
ゾッドは持ちこたえることができず、数名の同胞と共に宙へと舞った。
切り立った高い崖。その周りは悪魔の森。
ゾッドのはるか下方、濃い緑が広がる。
飛ぶには怪我が深すぎた。
落ちたらきっと、助からない。
地面に叩きつけられて即死すると言うよりも、森に喰われると言った方がよいだろう。
重力に負けて落下していくゾッドには、あの天使が最後どういう顔をしていたか、見る余裕は無かった。
身体を空へ開き、血を撒きながらゾッドは森へと落下していった。
彼の眼がいつまで空を捉えていたかは定かではない。
和尚小説の次は親分小説です。
話が作りやすいのはなんででしょーかね???
まだ続きます。
made:D.C.9(2007)/3/13