河原。

上流であるため大きな岩がごろごろと転がっている。
その中でもひときわ大きな岩を登る二人の少年の姿があった。
ひとりは長い黒の巻き毛。ひとりは白く光る金髪。
彼らは地元の中学生で、川の上流への冒険中だった。
金髪の少年の足が滑り、川へと落ちそうになる。
間一髪。黒髪の少年がその腕を取った。
「ファイト〜!!」
「いっぱーつ!!!」
どこかで聞いたような気合の言葉を上げ、二人は岩の上へと登りきった。

「はぁっ、はぁ…手ごわかったね…。」
よくわからない達成感を胸に黒髪の少年・篁(たかむら)は相方に語りかけた。
しかし相方からは返事が無い。
荒い吐息は聞こえているのでただの屍にはなっていないようだ。
「へばりすぎ……………」
からかうつもりで声をかけたのだが、篁は絶句してしまった。
疲れているからではない。
相方・湯沢の髪が無かった。
ふと下流を見れば、妙な金色の毛虫が流れていく。
あれはまぎれもない湯沢の髪、もといのーみそ。
のーみそがないと湯沢は単なるパッパラパァになってしまう。
篁は「休みたい」と言う体の文句を無視し蝉取り用の網を掴むと、のーみそを追った。


篁は下流までやってきた。
流れの速度はだんだんゆるやかになっていったが一向にのーみそは見つからない。
「もー海まで行っちゃったんじゃないのー?」
つい独り言を言う。実際海までは遠く、着いているわけがない。
「見つからないし、湯沢かついで帰ったほうが楽かもしんない。」
そう思うときこそ、探し物が出てきたりもする。
篁のいる岸側、垂れ下がった木の枝にのーみそが引っかかっていた。

なぁんで帰ろうと思ったときに…
頭の中でぼやきながらも、篁はのーみそを取りに行こうとした。
ふと、対岸の河原に眼が行く。否、河原にいる人物に。


教師と生徒らしい二人の人物が密着している。
二人の顔が近づいたのは一瞬で、その後生徒らしい方が何かを言って走り出した。
数拍おいて、教師も走り出した。
両者の足の速さはまったく違い、ぐんぐん距離が開いていく。


その様子を、篁はボーゼンと見ていた。
「今の…、清水さん………???」


とある年の初夏。
まだうるさくない蝉の声がその時だけ、消えた。









D.C.10(2008).3.19