クーラーの効いた涼しい部屋にデザートが欲しいと思い立ち、わざわざサンシャワーを抜けてアイスを買いに出た
「っは~~ただいまーっ!」
ライデンはさっさと部屋へ駆け込みテーブルの前に陣取ると、いそいそと二人分のアイスを取り出した
「お前の家じゃないだろ」
笑いながらタオルで汗を拭きつつ、エースは汗のしたたるライデンの頭にタオルを投げつけた
「さんきゅー。それより早く食べよーよー」
頭を覆うように乗ったタオルでわしわしと頭と顔を拭いて首にかけ、すでに蓋の開けられたアイスの両側でトントンとテーブルを叩く
「ほら」
タオルと一緒に持ってきたスプーンを手渡すとライデンは
「いっただきまーす」
と早口に言い、表面の溶けかけたチョコアイスにパクついた
エースもテーブルを挟んでライデンの前に座り、バニラアイスを食べ始める
「このアイスんまいね」
「奮発したかいがあったな」
「ストロベリーも買えばよかったね」
「そうだなぁ………あんまりがっつくと腹壊すぞ?」
「へーきへーき」
野性児っぼいくせに体弱いんだから少しは気にしろよ。と内心でエースは注意する
彼の思惑をよそに、ライデンはチョコアイスをハイスピードで食べていた
「エースの少しちょーだい?」
チョコアイスを半分ほど食べたところでライデンが言う
エースはバニラアイスを差し出す前に右手を差し出した
「交換」
「うん」
お互いのアイスを交換した、そんな絶妙なタイミングで
ぴんぽーん
とチャイムが鳴った
「…行ってくる」
ライデンとアイスを残し、渋い顔でエースは来客の応対に向かった
「こんにちは、○○新聞です」
「間に合ってます!!」
戸を閉めようとするも、相手は扉に足を挟み込んできた
「そんなこと言わずにお願いします」
「結構です!」
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苦戦すること数十分…相当の猛者であろう業者を何とか追い返し、エースは部屋に戻ってきた
「お帰り~」
迎えてくれたのはライデンと空になったチョコアイス、そして残り少なくなったバニラアイスであった…………
「ほら、夕飯できたぞ」
粥の入った二人分の器とお茶が乗ったお盆を手にエースは言った
場所はエースの部屋だが、彼のベッドはライデンが占領している
案の定腹を壊し、しばらく寝込んでいたのだがエースが来ると飛び起きた
「大丈夫そうだな?」
「うん、おなか痛いの治まってきた」
「そっか。急に体冷やしたせいで風邪引く可能性だってあるからおとなしくしてろよ。食べさせてやるから」
食べさせてやる
その言葉にライデンの目が丸くなった
俺が「あーん」って言わなきゃやってくれないのに、今日はエースから食べさせてくれるって!
頭の中でバンザイを三唱する
あんまり騒ぐとへそを曲げてしてくれないかもしれないので、とにかく喜びは表情だけで表すことにした
エースは目を伏せ、無表情で粥をすくい、ふー、と息を吹き掛ける
その姿をニコニコとニヤニヤの中間の顔で見つめる
本当はニコニコで止めておきたいが彼には無理だった
「ほらよ」と、エースが木のスプーンを突き出す
「あーん」
「あーん♪」
あまりにも嬉しくて、ライデンは一つのことに気付かなかった
すくわれた粥の湯気の量が増えていたことに…
「あっつ!」
吹き出しそうになったがなんとか口を押さえて阻止し、
「ちょ 熱いよ!」
と予想外の熱さに抗議する
舌先が火傷してジンジンする
「冷めた粥じゃ不味いだろ?」
当然のことのように返され
「そう言うレベルじゃないって!」
と再び抗議すれば
「俺の粥は食えねぇと」
とスネられる
「そーゆーんじゃなくてデスネ…」
「もう作ってやんねー」
「食べます」
「そーかそーか。じゃあまた食わせてやるよ」
エースは笑顔で再び粥をすくい息を吹き掛ける
彼が吹くのは灼熱の息で、粥は冷めるどころか逆に沸いていく
「あーん」
先程とは違って笑顔で突き出されるスプーンをライデンは回避できなかった
「…あーん」
半分ほど食べさせてからエースが言う
「ライデン、食い物の恨みって知ってるか?」
「恐ろしいほど味わいました…」