二名で外泊なんて、久しぶりだった
夜もふける前から杯を交わし、闇が薄まるまで体を交えた


優しい雨音にライデンは目を覚ました
横目で隣を見やると、そこではエースが眠っている
先ほどまでの情事を思い出し、自分では気付かぬ満たされた独占欲に口元がゆるむ

彼は外の明るさに気付いた
体を起こして窓を見る
閉め忘れたカーテンの向こうは青く薄まった闇に包まれ、その闇の中に星のように浮かぶ紅が点々とあった
庭に植えられた魔界産の椿が、薄闇の中で細かい雨に濡らされながらも誇らしげに咲いていた

その中でも一際美しい一輪がこちらを見つめていた
紅と金の大輪にまるで俺たちみたいだなどと思いを馳せてライデンは微笑んだ



花が落ちた

糸が切れたようにその一輪が土に墜ちた


しばらくその花に釘づけになる


生を誇るように咲いていた花
金と紅の美しい花
しかしその一番外側の花弁は衰えて黒ずみ始めていた




焦りが胸をよぎり、隣を振り返った
エースは先ほどと変わらず真っ黒な眠りについている
その顔には事後の疲労が色濃く残り、目の下に刻まれた一筋の皺がより一層深まっていた



背中が急激に冷えた

エース、と呼び掛けようとして止めた
起こそうとした手も少し持ち上がっただけで止まった

起こせば起きるだろうことはわかっていた
しかしできなかった
あり得ない不安に心を占拠され、体が震えだす


膝を抱えてタバコをくわえ、火を点けるのも忘れて端を噛み締めていた










「ふわふわのんの亭」様(現在閉鎖)で「椿」を題にリクエストしたところ、自分で書きたくなったというオチ
んでいろいろモヤモヤ考えていたところ完成品があがってきてそれに引きずられて書いてしまいました
暗い話ですが、あの話が無かったらギロチン男爵みたいな感じになっていただろうし、最後の場面ももっと暗いバージョンが出てきたりしたのでこれでもライトな仕上がりになっています
一方的な想いで書いたので「愛」ではなく、「恋」を込めて……
D.C.11(2009).08.01