なんだか気持ち悪い
異常なダルさにジェイルは目を覚ました
昨日は任務で大暴れ、どころかむしろ静かに過ごしたし夜更かしだってしていない
仕事や夜遊びはしても、次の日に響くほど特別激しいことはしていない………つまり心当たりはない

内臓全体が胃もたれしているようで、水でも飲めば治まるかと重い体をなんとか動かし、台所へとむかった
ぐらぐらと揺れるような感覚の中、台所になんとかたどり着いたものの、腹から喉へ逆流する感覚に襲われシンクの上へ身を屈めた

「戻す」という行為は不得意ではないはずだった
しかし、喉につかえているかのようになかなか出てこない
粘ること数分、固形のものが通った気がした後、カランという軽い音が洗面所に響いた
見れば手のひらに収まるほどの大きさの石のようなものが洗面台に落ちていた

ジェイルは身を屈めた姿勢のまま、しばらくそれを眺めていた
しかし頭ではそれが何なのか理解していた



軍事局

参謀室に伝令の小妖精が入室する
迷いなくルークの元に来ると『ジェイル代官がお見えです』と言付けた
『緊急事態のようです』
「な、なんだってー!!」
続いて発せられた四文字に動転し、ルークは局内を飛んだ
彼の通り道では書類とスカートの裾が踊った


来客用の部屋でジェイルは待っていたが、ルークが部屋へ入ってくるなり立ち上がった
「ジェイル、緊急事態だって!?」
「ルーク…!」
ジェイルはルークに向かって両手を差し出した
震える手の上には布、それには手のひらに収まるほどの大きさの石のようなものが包まれていた

「産まれた!」
ルークが問い掛けるよりも早くジェイルが口を開く
「う、産まれた?」
いきなり石を見せられて産まれたなどと言われても、ルークには何のことか理解できなかった


その物体が種だとジェイルは言った
「何の種?」
「俺の種!」
「産んだの?」
「産んだ!」
「男なのに?」
「男なのに!」
「ちょ、ちょっと待って……」
ほぼおうむ返しの返答に困って小休止しようとルークは制止を告げたが
「あれ?」
と続いたジェイルの言葉に
「ん?」
と応じてしまう
「何で俺産んだんだ……?」
「え?」
「いや、だって、俺男じゃん」
「………俺にはわかんないよ………」




軍事局まで行ってやっと平静を取り戻し、ジェイルは実家に住む母に電話をかけた
その背を落ち着かない様子でルークが眺めている

デーモン一族は性の違いがはっきりしている
性を変えて子を成すこともできるが、宿して産むまではその機能を有する性でいる必要がある
魔力が交じり合った結果、子が形成される場合もあるが、それには濃度の高い大量の魔力が必要であり、二名にそれほどの濃度と量があるとは思えなかった
ジェイルの父はデーモン一族である、しかし母は一見ヒト型だがその正体はネコ型の植物である
彼女も種を産んだと聞いていたため、何か分かると思って連絡を取った


数コール待たせて母が出た
「母さん?俺、ジェイル。……あの、種が産まれたんだけど…」
「まぁ、おめでとう!」
種を産んだことを伝えると、まず祝いの言葉が返ってきた
「ジェイルの子だから絶対可愛い子が生まれるわね、母さん楽しみだわ。でもジェイルももうそんな年なのね。こないだまでちっちゃかったのに……」
「母さん!そんなことより、俺男なのに、何で種産まれるの?」
過去話へと突入しようとする母親を制止し、疑問を投げる
「だって、植物は両性だもの。ジェイルは母さん寄りだったのね」

一輪の花に雄しべと雌しべがあるように植物の悪魔には両方の性質があり、一方の性に基づいた体の特徴を有したまま別の性の役割を果たすことができる、らしい
つまりは見た目がオスであろうとメスであろうと宿すことも宿させることも可能だということ、らしい

母曰く種は当然ながら土に植え、乾燥しないように努め、日光と月光の波長の違う光にあてることが大切とのこと
両親は家の庭に埋めたが、現在アパートに住むジェイルにはそれは不可能である
しかし観葉植物用の大きな鉢で十分とのことで、鉢を買いに行くとルークに告げると、彼は仕事をほっぽってついてきた

ベッドの側に鉢を置き、毎日水をやり、晴れた日にはベランダへと鉢を出した
種は数日で芽を出し、数週間後には腰の高さにまで育った










いわゆる子ネタ。
一応「痛」カテゴリ。

D.C.12(2010).02.14