軍隊勤務のルークの朝は早く、休みの日でもそれなりに早く起きてしまう
とりあえず着替えて髪を整え、朝食の準備に取り掛かる
ジェイルの朝は遅いため髪をしっかりキメてからでも十分だったりするのだ
洗濯機をまわしながらゆっくりとフレンチトーストを作り、ジェイルを起こしに行った
「ダルい。食欲ない」
ジェイルは寝た姿勢のままそう言った
寝起きのこのセリフは恒例のものだったが、いつもと違い、絞り出したような声だった
「大丈夫?」
ベッドの横に膝をつき、顔を覗き込む
「ドクター、呼ぼうか?」
ジェイルは小さく頷いたが、眉間に皺を寄せルークとは反対側に首を向けた
とっさに手で口元を覆ったものの、抑えきれず異臭のする液体がベッドにこぼれる
「じ、ジェイル!?」
驚いて名前を呼ぶも、ジェイルは自分の手と吐捨物を愕然と眺めていて反応しない
慌ててルークは医者に連絡を取ったが、すっかり動転してしまって状況説明が右往左往するのであった
その間ジェイルはまったく動かなかったが、胃液とは違う異臭をたてるその液体が膿だと頭の片隅でぼんやり、認識していた
医者いわく
実に宿った子は既に亡くなっている
初子だったことと、おそらく突然死だったために死に気付けなかったのだろう
実の中で胎児が腐り、実の内部まで懐死が起こっために母体に影響が出た
実を切って中のものを洗い流すことで悪化は免れ、ダルさは数日続くものの現在の状態より回復する
とのことだった
「処置しましょうか?」という医者の申し出に対してジェイルは断った
医者は薬を処方すること、数日おきに往診に訪れることを告げると立ち去った
医者の魔法と薬によって少々回復したジェイルはベッドに腰掛け、木を見つめていた
側にいるルークからジェイルの表情は見えるが、彼の視界には入っていないだろう
ジェイルはそっと実を撫でる
手触りは変わらず、悪いところなどどこにも無いように感じられた
「ごめん」
小さく呟く
右手にナイフを形成し、柄を逆手に握る
その上に手が重ねられた
ジェイルはルークを見ず、ルークは何も言わず
二名でそっと、刃を刺し込んだ
刃が少し沈んだところで切り口から悪臭を放つ汁が垂れる
傷が深く、長くなるにつれてその匂いはキツくなり、透明で水っぽかった汁が黄色く濃い塊に変化していく
ジェイルの視界が歪んでいく
ルークが小さく鼻をすする
無言のまま30cmもない実を裂き、そっと開いた
中には誰もいなかった
腐敗の進んだ子は膿に溶けてしまったのだ
堰を切ったかのように涙が溢れた
声を上げて泣くジェイルをルークが抱き締める
悲しみを吸収するかのように強く、強く抱き締める
子供のように、二名は泣いた
初めに思いついたシーンはジェイルが種を吐くシーン
次に出てきたのが、ジェイルが泣きながら実に刃を立てるシーン
発想が暗い……
D.C.12(2010).02.14