あれから数日
ルークは未だジェイルの家に泊まり込んでいろいろと世話を焼いている
彼は家事に加えて着替えを手伝い、そして風呂食事まで促す
確かにショックは大きかったが、そこまで面倒を見てもらう必要は無いとジェイルは思う
昼食をすましてルークは二名分の食器を片付けはじめた
洗った食器をすべて棚に戻すと彼はテーブルを拭き、ご丁寧にもフローリングの床にモップをかけ始めた
その様子を椅子の上でずっと見ていたジェイルは
「帰れよ」
と突き放す言葉を投げつけたが
「帰んないよ。」
と返された
「もう一名でも生活できるし」
「何言ってんの。ボーッとしてるし、食欲も無いし、説得力無いよ」
正論にジェイルが詰まっていると
「…俺もそうだけど」
そうルークは付け加えた
「俺何もわかんなかったし、何もできなかった。だから何かしてないと、俺も空っぽになりそうなんだ」
止まったモップを見つめて彼は言った
「………………」
ジェイルはそっとリングを抜き、
「リング、返す」
とルークに突き付けた
「子供ができたからくれたんだろ?もういないんだ、返す」
ルークは床から視線を外さずに返した
「…受け取らないよ。確かにあの子がきっかけだったけど…」
少し息を切って
「そうじゃなかったらきっと、いつまでも渡せなかった。」
ジェイルを見る
「あの子にありがとうって言わなきゃね。……できればおかえりも……」
ぎこちない笑顔でそう言って、彼は再び床に視線を落とした
ジェイルはルークをしばらく見つめ、リングをそっと指に戻した
「ルーク、ルーク!」
草の生えた土手の上、名前を呼ばれてルークは目を覚ました
頭の上で麦わら帽を被ったジェイルが見下ろしている
「あはっ、いい天気だったから寝ちゃったみたい」
「最近夕方になると急に冷え込むだろ?風邪引いたらどうすんだ」
ジェイルの紋様が少し釣り上がる
「大丈夫だって」
「ルークはいいよ、ひいたって」
「ひどっ」
ルークの紋様が垂れ下がる
「もうすぐ父さんと母さんが来るんだ。帰るよ」
「うん」
短く返事をしてルークは起き上がる
「クーちゃん、起きて」
自分の傍らで体を丸めて眠っている少女の頭を撫でながら声をかけた
少女の栗色の髪から、同じ色の耳が立ち上がる
彼女はゆっくりと起き上がって大きな欠伸をした
「眠い?」
問い掛けるルークに少女はこくんと頷いた
「じゃあ、おんぶね」
ルークが背を向けると彼女はその背に体を預け、夢の続きを見始めた
その顔には頬を横に走る線と目周りを彩る青い紋様があった
ルークは歩調を早め、先に歩いているジェイルに追い付いた
彼もまた赤子を背負っており、ルークは赤子を覗き込む
「こっちも寝てる」
そっと赤子の頭を撫でる
赤子の顔には頬を縦に走る赤い紋様があった
ジェイルの横に並び、ふと彼を見ると、視線があった
しばらく見つめあい、どちらからともなく口付けた
死産話だから書くかどうか悩んだ
でも、実を裂くシーンの次に出てきたのが女児の手を引いて歩く二名の後ろ姿だった
だからこうして書いたわけだけど、お、オッケーですか??
子供は姉と弟で、名前はジェイ「ル」→「ル」ー「ク」の繋がりから「ク」ーちゃん
弟は未定
D.C.12(2010).02.14