遊廓妄想〜見学〜
魔界の一大繁華街
そこに店を構える有名遊廓
昼だというのに悪魔どおりは激しい
「今日のショーは猛獣の調教!キャッチボールに火の輪くぐり!あと三日でお仕舞いだ!!見なければ損をするぞ!!」
その悪魔どおりの中で一名遊魔が通る声で呼び込みをしている
足を止める者、期待して小屋へと入る者、気にせず遊廓に向かう者、と反応はさまざま
だがその中にどれにも属さぬ者がいた
呼び込みの芸妓から離れた遊廓の塀
着流しを着た細身の青年が凝視するは求人募集の広告
「時給1500円…」
青年がひとりごちる
ファミレスやスーパーのバイトに比べれば当然高い
しかし重労働じゃなかろうか…
「ここでの仕事に興味があるのか?」
「えっ、あの、その…」
悩んでいるところに声をかけられ、言葉がどもる
呼び込みをしていた遊魔がいつの間にか青年の傍に来ていた
「なぁに、見学なら特別タダだ。見ていくか?」
「はっ、はい…」
遊魔の金糸を結ったような髪、白磁の肌の美しさについ空気が抜けたような返事を返してしまう
遊魔はふふんと笑うと
「ならば話が早い。行くぞ。」
と青年を遊廓の入り口へと向かせ、自身はその後ろにまわる。青年の肩に手を添えると、
「一名様ご案内〜♪」
とよく通る声で言いながら彼を押していった
青年はと言うと、遊廓に遊びに入ったような言い回しにわけのわからぬ羞恥を感じて顔を赤らめていた
遊廓の入り口は意外と狭い。おとなが並んで三人同時に入れる程度である
これだけ聞くと広そうだが、店の外観や他の店の比率と比べれば狭いほうなのだ
しかし土間は広く、学校一クラス分は収容できそうだと青年は思った
番台には角を生やした男が座っていた
青年をここまで押してきた遊魔が彼に言う
「見学者だ。ここで働きたいそうだ。」
「おっお願いします…」
角を生やした受付の男は「そんなに緊張しなくていいよ」と笑い、「じゃあこれをかけて」と番台の下から『見学者』と書かれた紙を取りだした
厚紙を二枚重ねて穴を開け、ひもを通した簡素なソレは手作り感を醸し出している
「では吾輩が案内してやろう」
金髪の遊魔が歩きだしたので、青年は遅れまいと初めての遊廓を歩きだすのであった
え、もちろんあの方ですよ?
D.C.10(2008).10.20