遊郭妄想〜始まり〜
ご機嫌のジェイルと憔悴のルークが遊廓の玄関に戻ってきたところ、そこは先程と違った様相を見せていた
広い玄関の真ん中に数人の悪魔が立っていた
若い遊魔に幼い遊魔、喜助が数人、そして紅い着物の長身の悪魔
彼らの周りをさらに喜助が行き交い、衣装や髪を整えている
「まさかあいつ?」
受付のところにいたデーモンにジェイルは寄っていき、小声で尋ねる
「ああ」
デーモンは無表情で答える
昼から太夫を占領しようという「あいつ」はデーモンの反応の示す通りあまり歓迎されていないようだ
お呼びのかかった遊魔たちも渋い顔である
傍目には煌びやかな一団(準備途中)だが、心中を察する物たちにはモアイのように目にかかる影が見えていた
そんな事情を知らないルークただ一名だけが紅い遊魔に見とれていた
「あの悪魔って…」とデーモンに尋ね、「清水さんだ」 と数刻先と同じ回答をもらった
「それは解ってるんだけど…」とルークはひとりごちる
紋様も顔もまさしく当人のものなのだ
だが纏う雰囲気がまったく違う
先ほどは微塵にも感じられなかった色香がどこから出てきたのか、彼の周りを浮いていた
準備が整うと彼らは店を出ていった
この遊郭から客の待つ場所へ遊魔が行くことを花魁道中と言う
それと行き違いになってひとりの青年が玄関から入ってきた
「ちはーっす」と元気の溢れる挨拶が玄関に響く
歌舞伎役者の様など派手な頭の青年は迷わずデーモンたちの元に来た
「号外が出たから持ってきたよん」
そう言って袖から瓦板を取り出すと
「何々?」
とまずジェイルがそれを取り上げる
「ライデン、いいところに来たな」
とデーモンが笑い
「明日からこいつと一緒に仕事をしてくれ」
とルークを指した
「いいよ」
とライデンはあっさり承諾すると、
「新人?名前は?」
とルークに向く
「ルーク篁です」 とルークが何度目かの自己紹介をすると
「タメでいいよ。俺、ライデン湯沢」
とニコリと笑った
「では明日の昼、人魚の刻に来てくれ」
とデーモンが締めた
翌日の昼も遊廓「悪魔の穴」の前でデーモンが呼び込みをしている
こちらに気付くと、親指で入り口のを指した
中に入ればゼノンの座る番台の側でライデンとジェイルがが待っていた
「ますは掃除からだよ」 と言われ、ライデンとStaffOnlyに入る
掃除道具を階段下の棚からライデンが出している間にふと上を見上げると、ずっと上の階から煙管を持ったエースが見下ろしていた
彼は微笑を浮かべながらルークに向かって指をひらひらと振ると奥へ引っ込んでいった
ルークの遊廓での日々が始まった
第一章的なものはここでおしまいです。
ここから物語は始まるのです。
D.C.10(2008).10.20