遊廓妄想〜侵入者〜


岡っ引きに暴漢を引き渡し門まで見送った後、デーモンは自分の遊廓へと帰ってきたが、何か上が騒がしいと思い外へ出た
明るい花街の夜がふっと暗くなったと思ったら、上から青年が降ってきた
エースに話を聞くと「不法侵入だ」と返され、青年は新たな岡っ引きに連行されていった
その数日後、壊したものを労働によって弁償するものと奉行に命じられ青年が遊廓にやってきた
弁償が済んだころ、青年は遊廓に馴染んでしまい今でも仕事を続けている


と言うのがルークの聞いたライデンの話であった
ルークが遊廓に来るずっとずっと前のこと―――――









「手前ぇ、何しやがる!」
夜の遊廓に怒声が響く
追ってがしゃがしゃと何かがぶつかり砕ける音が聞こえた

受付にいたゼノンとデーモンが「なんだ?」と思った時にはジェイルが二人の横を駆け抜けて行く
デーモンもまた彼を追いStaffOnly内の階段を駆け上がった

四階へさしかかったあたりで前を走るジェイルが不意に右へと避け、そこから男が降ってきた
デーモンはまともにぶつかり、距離は短いものの階下へと二名は転がり落ちていった…


男をジェイルが縛り上げている間、デーモンは叫びの主、エースに事情を聞いた
服の乱れを整えながらエースが言う
「事情も何も戸を開けた瞬間飛び掛かってきたんだよ。だから殴って階段に捨てた」
「わかりました。そう説明しておきます」
そう言いながらデーモンは自身の額に×印の絆創膏を貼った

しばらくしてゼノンが呼んだ岡っ引きがやってきて暴漢を連れていった
彼らを見送りにデーモンは遊廓の門まで出ていった


「やれやれ…」
エースは部屋に戻ってきた
押し問答したときに蹴飛ばした灯台や壊れた調度品が転がっている
その中から取り落としたかんざしと煙管を拾い上げた


「!? 何者!?」
ふと気配を感じ、拾い上げたかんざしを障子へと投げつける
かんざしは障子に小さな穴を開け、外の闇へと吸い込まれていった



「………お前、何者だ?」
しばしの沈黙の後、障子に向かってエースが言う



「……よく気付いたね」
更なる沈黙の後、障子の向こうから声が返ってきた

「落ちた音が聞こえなかったもんでな」
「さすが」
新たな暴漢か…とエースは思ったが、すぐに否定した
暴漢ならば冷静に会話などするわけがない
「まさか俺を試したつもりか?」
「まぁね。傾城の大火がとんな悪魔か見てみたかったのよ」

傾城の大火とは、エースの通り名である
傾城は遊魔の別名である。遊びにかまけて自身の財を滅ぼす藩主や大名は後を断たない
大火はエースの特性である。顔全体を彩る紅の文様の美しさを讃える言葉であり、花魁という地位の高額な料金を「火事のように金が無くなる」と皮肉った言葉でもある

「さすが大火。かんざしまで煙草(けむり)の匂いがする」
「欲しけりゃくれてやる。虫のいどころが悪いんだ。さっさと帰れ」
挑発するような言葉に対し、眉一つ動かさずエースが言う
「あーあ、でも見たかったなー。大火と呼ばせるほどのアツいジョーヨクってやつ」
「手前ぇっ!!」
エースは障子に駆け寄り、それを勢い良く開けた
障子のすぐ向こうには金の髪を持つ青年がいた

その距離わずか五cmほど
青年の右手がエースの顎に触れる
「キレーな顔して‥んがっ!!」
青年が喋り終わらないうちにその顔を思いっきりひっぱたいた

不意打ちに青年がよろける
ぶたれた頬を手で抑え、
「ひでぇっ、親にもはたかれたことないのにっ」
と抗議の声を上げるが
「知るかっ!」
とエースは間髪入れずに一蹴した

「てゆーかここは見つめ合ってキュンてなるとこじゃないの?」
「ないっ!」
更に強く否定され、青年はおよよと泣き真似をした

しかし虫のいどころの悪いエースはこのまま放っておくつもりは無く、窓を乗り越え屋根に降り立った
「冷やかしなら帰れ!じゃねぇと奉行所に突き出すぞ!」
青年に近づき、捕まえようと手を伸ばすも寸前で避けられる

「奉行所だけは勘弁!じゃあね!!」
そう言って青年は屋根から飛び降りた
「っおい!」

ここは五階だぞ!!
と一歩前に出るも青年の姿は既に消えていた




屋根から飛び降りた青年は空中で着地の体勢を整え、遊廓の前に降り立つつもりだった…が
「何だ?さわがしいぞ」
屋根の下からデーモンが出てきた


「避けて〜〜〜〜〜!!!」


どしゃっとした音が聞こえた後、静寂が戻ってきた…


やってきた岡っぴきに青年は「不法侵入」で突き出された
ちなみにデーモンにたいした怪我はなかったと言う




数日後
「ちはーっす!」
元気な声で青年が遊廓にやってきた
「なっ、何のようだ…?」
デーモンが応対するも、笑顔がひきつっている

「どたばたして色んなもの壊しちゃってさ。その弁償を仕事で返せって。これ奉行所からの書類ね」
青年は懐から書類を取り出した。
「む…奉行所がそういうなら仕方ない…」
デーモンは書類を受け取り、左右と上方を見回した
「何も落ちてこないって」
番台のゼノンが突っ込む
「何事も用心するに越したことはない…お前、名は?」
「ライデン湯沢!」




乗り気でない客をパスし、エースは自室でタバコをたしなんでいた
そっと窓を開け、屋根にむかって話し掛ける
「捜し物はそこにゃあねぇよ」
袖から小さな金の仏像を取出すと、窓の外へ腕を出し像を振った

「うまく隠したと思ったんだけど」
声だけが返ってくる
「蟲毒寺の金の仏像、鼠小僧に盗まれる…だっけ?どさくさまぎれに隠しやがって……………通報なんかしねぇよ、これは蟲毒寺が盗んできたもんだからな」
仏像を軽く放り投げる

「詳しいね」
部屋から差し込む灯りの中にライデンが現れ、放り投げられた仏像をキャッチする
「遊魔だからって世間知らずと思うなよ」
自信に満ちた物言いにライデンが笑う

「お前、なんで自分が壊したことにしたんだ?これを回収するのにここで働く必要は無ぇだろ?」
「うん。これを取りにくるだけならね。あとーー」
仏像の頭を指でつまみ、左右に降る
「飛んで火にいるなんとやらってやつ?」
ニコニコと笑うライデンにエースは苦笑した










あ、あれおかしいな
ライデンの性格がとんでもねΣ(゚Д゚;;
ライデンは仔犬に見える狼だと思ってます。仔犬の皮をかぶったではなく、あくまでも仔犬に「見える」
無邪気で子供っぽいけど思考はオトナ………ムズカシ

サブタイは別名〜デーモンの踏んだり蹴ったりな一日〜(笑)

更新日 D.C.10(2008).10.31