遊廓妄想〜番頭奮闘記〜
日の入りも早くなり、街が活気づくのも早くなった
夜の街であっても、朝から動き始める
デーモンの朝もまた早く、この時期の日課である打ち水を撒いていた
「デーさん!デーさん!」
水撒きを終えたところ、一名の女性が彼に話し掛けた
藤色の着物が初夏の陽射しによく映える彼女は「悪魔の穴」の常連で、デーモンとは顔馴染みの中である
「評判のお団子屋で団子買ってきたんよ。忙しくなるまで時間あるやろうし、一緒に食べんね?あの金パツの兄ちゃんは、ようけ食べるからちゃんと別に買ってきたっちゃよ」
と、クリーム色の包みを二つ差し出した
包みには紅で「丸沢製菓」とロゴが打ってある
「丸沢の団子か!よい選択だな」
「何話してんの?」
二名が話しているところにライデンもひょっこりと顔を出した
「団子の差し入れだ。お前の分も特別に用意してあるんだと」
「うっれしー、サンキューVv」
キラキラと目を輝かせるライデンを尻目に、デーモンは時間を確認する
「ふむ。ちょうど一服の時間だ。ゼノン、しばらく任せたぞ」
「はーい」
店番をゼノン一名に任せ、三名は上の階へと上がっていった
「ま、こんな時間から来るお客さんなんて知れてるしねー」
ゼノンはおすそ分けにもらった包みを解いた
色んな種類の団子が入れ物に盛られている
ゼノンはそれをつまみながら帳簿をチェックし始めた
一つ二つと口に運んでいたが、楊枝に刺したはずの団子が消えた
刺さったけれど皿に落ちたものだと解釈し、今度は予約の確認をしながら再びつまみ始める
「おはよーございまーす」
と最近聞き慣れた声がする
それでもゼノンは予約表から目を離さない
「ゼノン、デーモンはああぁぁぁっ」
ルークの頓狂な声の後、何か重いものが床に落ちた音がした
驚いて見てみると、尻餅をついたルークの姿があった
「何コレ〜〜〜!」
ルークの足裏にはにちゃっとした白と飴色の物体が張り付いている
「あ〜ごめん。お詫びに…食べる?」
こそっと皿を差し出すが、気付いてみれば中身は空っぽであった
「何を?」
「……ごめん。何でもなかった…」
デーモン不在の一日・続く(笑)
D.C.10(2008).10.31