遊廓妄想〜祭りに向けて〜
夏も半ばにさしかかったこのごろ
晩夏に開催される夏祭りに向けて遊廓には予約が殺到する
「この部屋、借りたいんやけど」
「すまんが既に予約済みだ」
部屋と遊魔を予約する男にむかってデーモンははっきりと言った
「へ?まだ半月も先やろ?」
「先月の終わり頃から予約済みだ。今開いている部屋はー…この辺だな」
丸い指が部屋割りを描いた紙上を滑る
「そこ!?」
「あぁ」
「花火全然見えへんやん!」
「だから空いている」
悪魔の穴は一ヵ月ほど前から予約注文の客で一杯であった
夏祭りはまだまだ先というのに遊魔たちも忙しい
客から予約を取るために身だしなみに気合いを入れ、営業も余念がない
茶屋や遊廓も祭の日に向けて発注や大掃除をするため、夏祭りが近づくにつれて年末のように忙しくなっていくのであった
遊廓が本格的に営業を始める前の、登った太陽がまだ上昇していく時間帯
受付では遊魔の予約も行っている
「三日目の夜にルビィを借りたいんだけど」
となじみの若い男が遊女の名を言う
「えー…っと、その子は…うん、空いてるね」
ゼノンは先約を確認し、
「じゃ、受付証にサインを」
と一枚の紙を取り出す
普段は許可が降りれば外に出ることが可能であるが、花街内のみと制限されており、出られるのも「端」という最下級の遊魔のみである
しかし、祭りなどの特別な行事とあれば「端」意外の遊魔も遊廓どころか花街の外にも出ることが可能である
もちろん「信用のおける」客同伴という条件付きであるが
二階の遊び場ではいまだ眠っている客を喜助たちが起こしていた
「もう朝はすぎましたから、起きてください」
遊魔と一緒に客に身支度を整えさせて部屋から追い出すとルークは部屋の掃除を始めた
客の見送りを終えて戻ってきた遊魔が
「祭りの一日目に予約もらっちゃった!」
と満面の笑みでVサインを作る
「おめでとっ」
とルークも満面の笑みで返すのだった
三階の食事処の奥では予約表を中心にデーモンと板前たちが発注のめどをたてていた
「魔アジを追加注文した方がよさそうだな」
予約の追加人数を見てデーモンが首をひねる
「今年は黒魚が大漁だそうですからそれを仕入れてはどうでしょう?」
と、一名の板前が提案する
「黒魚か。そうだな、それを注文しておこう」
デーモンは注文書に新たに黒魚を書き加える
「じゃあ、宴会コースのメニューはこうしますか」
別の板前がお品書きに黒魚料理の名を書き足すと
「これに人面果の砂糖漬けをつけましょうよ」
見習いの若者が口を挟んだ
「お前そればっかりだな…」
そんなに好きか、とデーモンは苦笑した
併設された見せ物小屋は閉店中である
スペースを貸す興行主は祭りの開催地に店を構えるため、祭りが終わるまでここはからっぽになっている
見せ物小屋の裏手ではゾッドが日課であるトレーニングを行っている
祭りの始まるしばらく前はノルマを上げて臨んでおり、地面すれすれにつくほどに深く沈む指立て伏せの回数を、その背中に乗ったジェイルが眠そうに数えていた
その隣では、小屋の壁に背を預けながらも片手でダンベルを上げ下げするジャギがいた
ジードは今日は休みのため、まだ家で寝ているだろう
五階のエースの部屋ではライデンが上がり込みチラシを広げていた
「祭りのイベントのチラシ、これでいい?って聞かれたんだけど、どう?」
花火大会の余興イベントの告知であるそれにはさまざまなアトラクションやパフォーマンスが綴られている
「んー、いいと思うけど、字がちょっと見づらいな。もう少し明るくしたらいいんじゃない?あ、あとここももう少し離してさ…」
エースの提案にライデンは二、三度頷くのであった
悪魔の宴は1週間
七日七晩のどんちゃん騒ぎのあと、死んだように眠りこける
花街だけでなく魔都全体がそのときのために動いていた
ごめんなさい。これ秋に書いた文章です。
どっちにしろ季節外れ(^w^;;)
D.C.11(2009).1.26