遊廓妄想〜まゆしろ〜


まゆしろはジェイルが悪魔の穴に来てしばらく経ったころに買われた遊女だった
まだ幼子であった彼女は皆から妹のように可愛がられており、ジェイルも菓子をやったり遊んだりと世話を焼いていた
一年を過ぎたある日、まゆしろは口から糸を吐き、蛹となった
3日ほどまったく動かず、皆は心配したが彼だけは「大丈夫」だと信じ、番をしていた
蛹が裂け、中から出てきたのはあどけなさを残す顔立ちと妖艶な体の女性であった
昆虫属などのような変態する悪魔は幼子から大人へと少女の時期を超えて成長する


鷹さんは友人の付き合いで遊廓にやってきた
眼光の優しい猛禽の悪魔であった
宴会の後、彼の友人たちは気に入った遊魔を個室に連れ込んでいたが、彼は座敷で年少の遊魔たちと遊んでいた
その中には幼いまゆしろも混じっていた


大人になったまゆしろは遊魔としての教育を受け、新造遊魔となった
3日で成長してしまったために教育の方が追い付いておらず、慣れるまでは客を取らせず大勢での宴会にのみ参加させた
先輩遊魔にいろいら教えてもらいながらも経験を積み、いつしか端遊魔の一つ上の格子遊魔に昇格していた
狭いながらも自室を与えられ、端としてまがき(遊魔のショーウィンドウ)の中にいる必要もなくなった


「まーゆしろっ」
ジェイルは彼女の部屋に入り、鏡に向かう後ろ姿に抱きついた
「どうしたの?ジェイル兄さん」
鏡の中でまゆしろがほほえむ
彼女にとっても彼は兄であった
「暇そうだから遊びに来たvv」
そう言い右手をまゆしろの着物のあわせに滑り込ませようとする
遊魔同士が「遊ぶ」ことも魔界では珍しくない

ジェイルの右手は着物の中に入る前に止められた
腕に添えるようにまゆしろの両手の指が置かれている
「今日は、あにさんがくるから、ダメ」
柔らかい声で彼女は拒んだ
「…あにさんのこと、好きなの?」
貞節を守る理由なぞ数えるほどもない
しかし彼女の答えは違った
屈託の無い澄んだ声で、短く
「つきあってるの」





だから、格子にあがったのだ










ジェイルふられる、の巻き

D.C.11(2009).1.26