「沢松聞いたか!?」
「何が?」
ホームルームが終わるや否や俺の鬼ダチ、猿野天国が話しかけてきた。
「何がじゃねーよ。最近不審者が出るらしいじゃねーか!」
あぁ そーいや先公がんなこと言ってたな。
「つーわけで俺たちでとっ捕まえてやろーぜ!」
はぁ!?とっ捕まえる?何で?つか、俺たち!?
「ふふふ‥天国様の素晴らしい計画に声も出ねーか。」
「何でそーなる!!」
我に返って即突っ込む。しかもそれは『計画』じゃなくて単なる『アイディア』じゃねーか。
「俺の凪さんが不審者に目ぇつけられたらと思うと‥よし、今すぐ決行だ!待ってろ不審者〜〜〜〜〜!!!!!!」
天国はそう言って立ち上がると服を脱ぎながら猛ダッシュで教室を飛び出した。
「今不審なのはお前だ〜〜〜!!!!」
俺はアイツを止めるべく後を追った。




「不審者を捕まえるには囮が一番だと思ったんだけどな〜〜...」
天国は玄関で座り込んでいた。その手には三つ編みのおさげの付いたかつらがあった。
「だからってストリーキングはやめろ。」
「新調した制服が入らねぇ。」
天国の着ている十二支高校女子制服はつんつるてんと呼ぶのもおこがましいほどだった。
「人の話聞けよ。」
「というわけでお前が着ろ!」
「だ〜〜〜っ!なんでそーなる!!そして公衆の面前で脱ぐな!!!さらに人の話を聞け!!!!」
「‥…きつくて脱げねぇ…‥ι」
とりあえず俺たちは野球部室の裏に隠れた。今はテスト期間中なので部室は開いていない。
「はぁ〜やっと脱げたぜ。んじゃ沢松頼むぜ。」
「なんで俺が女装しなきゃなんねーんだ!こーいうのはピノとかが適任だろ!?」
「あ・の・なぁ〜ピノに借りなんか作ったらそれをダシに凪さんに急接近すんだろが!!」
あっそ。
「だから、お前が一番頼りなんだ。」
‥なんだよ。急にそんな真面目な顔すんなよ。


そ し て



「…これで満足か…?」
結局俺は女子制服を着た。こんな姿親には絶対見られたくねぇ‥
「………」
天国は無言のまま俺を見ている。
「何だよ‥何か言えよ。」
バカみてぇだろ‥。
「‥沢松。お前こうして見るとすっげぇ美人だな。」
天国の目には驚きの2文字があった。 「当たり前だろ。このハンサム様に向かって何言ってんだ。」
「いや、そうじゃなくて、」
天国が俺の両肩を掴み、俺をその場に座らせた。天国の目が、ヤバい。
「可愛いんだって。」
俺の左肩にあった天国の右手が俺の則頭部に移ったと思った途端、天国の顔が迫ってきた。
天国のやろうとしていることを瞬時に理解し、いや、むしろ防衛本応から俺はその顔を殴った。大パンチで。
「ぐはっ!」
天国はのけぞった。しかしすぐに復活した。
「いーじゃねーか!減るもんじゃねーだろ!」
再び迫ってくる天国の肩を押し返して言った。
「減るわ!俺の人生幸せポイントが確実に減る!!」
それでも天国は向かってくる!
「むしろ増えるだろ!」
「バカ言えー!!!!!」
とにかく天国の顔に手をあて、ありったけの力で押し返す。
「ん  なろ 〜〜!!」
天国が手を前に突き出しバタつかせる。しかし野球部員と報道部員。腕力の差は歴然なわけで…。
天国の手が俺のスカートの中に入った。
「!!!」
さらに俺の大事なトコロに触れた。俺の体から力が抜け、天国は
「……………」
動かなかった。
「………萎えた………。」
「……当たり前だろ…。」
助かった‥。



気をとりなおして、俺たちは不審者を捕まえるため帰り道とは違う道を歩くことにした。俺のあと約30mほどを天国がついてくることになっている。
しばらくバタバタしていたおかげであたりは薄暗いというより真っ暗でまさに不審者さんいらっしゃ〜い状態だ。
すた すた すた
しばらく歩くが一向に誰ともすれ違わない。
すた すたスタすた すたスタすたスタ
足音がなにげに増え、近づいてくる。
すた すた すたスタすたスタすたスタすたスタ
俺を追い抜こうとする気配が全くない。たんなる通行人だと思っていたがもしや…
そう思った途端腕を掴まれた。反射的に相手を見ると、そこには見知らぬオッサンがいた。
しかも、なんかハァハァ言ってる!
「お‥お嬢ちゃん‥いいこと‥しない?」
三流ゼリフ。だけどこの時はそんなこと思ってる余裕なんて全く無い!
「い‥いえ、結構です。」
男の肩ごしに道を見たが、天国らしき人物は全然見えない。あいつ、どこ言ったんだ!?
「そんなこと‥言わずに‥さぁ?」
男が迫ってくる。俺は後退りをした。夕方の天国の何倍も気持ち悪い。
「痛くしないから‥ね‥?」
さらに迫ってくる。俺はまた後ろへとさがった。
トンッ
俺の背に塀が当たった。逃げ場が無ぇ!!
「本当は‥シたいんだろ‥?」
男の顔がせまってくる!俺は目をつぶり、顔を背けた。それが俺にできた唯一の抵抗だった。


「だりゃ〜〜〜〜っ!!」
やけに力んだ掛け声が聞こえたかと思ったら、その直後に鈍い音と何かが倒れた音がした。目を開けると、そこには天国が座っていて男はその下敷きになっていた。
「捕らえたぜ不審者!!いやー悪ぃ悪ぃ、じつはさっき溝にはまっちまって‥だけど超スリリングだったろ?」
天国が無責任なことを言い出す。
「それより警察だろ?」
「そーだそーだ。それそれ。」
ひゃく、じゅう、ばんっと。そう言いながら天国は携帯のボタンを押し、耳にあてる。
解ってるって。お前が自分を正当化してるのは反省の裏返しだろ?そんなもんこの鬼ダチに通用するかっての。
「もしもーし!俺たち今不審者を捕まえました!‥え?どこって?えー、あー、沢松代わってくれ。なんて言えばいいかわかんね‥」
そう言って俺を見た天国の顔に?が浮かんだ。
「ぷっ、ははは‥」
俺は、いつのまにか笑いだしていた。
「はははは」
「あははははは」
俺につられたのか、天国も笑いだした。
「「あははははははははははははは」」
しばらく、警察の人を待たせたまま、俺たちは笑っていた。



「いやー、君たちお手柄だねー。」
「はは、あはは。」
現場検証。
男は最近話題になっていた不審者で、しかも誘拐未遂の前科もあった。俺たちはそいつを薙ぎ倒した英雄として警察に誉められていた。
はっきり言って逃げ遅れた。こんな姿で目立ちたくねーし‥
「いや〜、やっぱこの辺に住む人としてはそういった不審者は成敗してやんねーとな!」
天国は俺の隣で調子のいいことを言っている。ったく、こいつは…

パシャッ

パシャッ…?



『高校生カップル、不審者一撃!』
これが朝刊の見出しだった。写真は顔は解らないようになっているが、俺の女装のせいで十二支高だとバレバレだ。
「健吾!あんたの学校ってすごい子がいるのねぇ。」
お袋は気付いてないようだ。
「でもこの子天国君に似てない?」
「絶対気のせい。」
〜〜♪#
不意に携帯が鳴る。梅さんからのメールだ。
『今日の朝刊見まして(驚)?報道部で特別取材ですわよ(急)』

「学校行きたくね〜〜‥」










猿×沢っぽくなってますか?(猿←沢っぽくもあるけど)
本当のところ、「不審者はお前だ〜!」と二人の格闘(?)が書きたかっただけです。
作成日:2004.12.09
金籠収録:2009.08.01