Jack the Ripper 05


何、こいつ。化け物じゃん。
少年の猛襲をかわしながら綺羅は思った。
水色の髪、金の瞳、背から生える翼。
少年の容貌は人間のようでどこか違った。

そもそもなぜ自分がこんな目にあわなければならないのか。
私はナイフを拾っただけなのに。
もう、だんだんムカついてきた‥。
綺羅はナイフを握る手に力を込める。
彼女の瞳にも殺気がみなぎっていた。


しかし関係は変わらない。
綺羅は攻撃をかわすのが精一杯であるが、少年の攻撃はだんだん鋭くなっていく。
ナイフの一撃を上に弾かれ、綺羅の胴がガラ開く。
少年はその隙を逃さず大剣を振るった。


歯切れの悪い音がした。
少年と綺羅の間に子供が滑り込み、バリアーを張っていた。
2桁もなさそうな年のその子は白装束に身を包み、無表情で剣を受け止めている。
「やめろ!」
やっと駆けつけた眼鏡の少年が大声でどなる。
白装束の少年は彼の放った式神だった。
「邪魔しないでっ!」
青髪の少年は剣をひいたが、綺羅はナイフを式神の背中に突き立てた。
「くっ。」
式神の姿が消え、眼鏡の少年の背中に刺された痛みが走った。
彼の式神は自身の霊力から作り出した分身であるため、式神を撃破されたときの反動が直に彼に返ってくる。
「ムカつくからアンタも死んでよ。」
痛みに苦しむ少年に綺羅は言う。
「させない。」
大剣を持つ少年が綺羅に言う。
「駄目だ。」
眼鏡の少年が大剣を持つ少年に向かって言う。
「その子は人間だぞ‥!」
「仕事だ。」
表情ひとつ変えず、大剣を持つ少年は返した。
「人を殺す仕事なのかよ!」
眼鏡の少年が叫ぶ。
綺羅がナイフを持ち変える。
「不本意だが、そうだ。」
綺羅の攻撃を青髪の少年は軽く避ける。
攻撃を弾かれ、綺羅が尻餅をつく。
「出てこないのだから、媒介を先に始末する。」
「やめろよ!」
眼鏡の少年が、青髪の少年の腕をつかむ。


綺羅には二人が何の話をしているかわからなかった。
とりあえず目の前の少年二人は片方が自分を殺そうとして、もう片方がそれを阻止しようとしているらしい。
どっちを先に殺すかは決定した。
彼らを見まわし、後ろの人物に気付き、固まった。
「‥‥きら‥」
その声に眼鏡の少年も振り返る。

そこには嘉凜がいた。


「なんで嘉凜が?」
「なんで君が?」
綺羅と眼鏡の少年の声がハモる。

「か、嘉凜、違うの。この人たちが襲ってきて‥!」
なんとか弁明しようと綺羅は慌てた。
その隙を見て、大剣を持つ少年が武器を振るう。
それは一瞬だった。

しかし、
「だからこれ、正当防衛だよ!!」
その刃はナイフでしっかりと受け止められていた。

「き、綺羅!?」
「君は何も見なかった!」
人間外の反応を見せた親友にとまどう嘉凜に、眼鏡の少年が叫んだ。
「聞かなかった!だから誰にも言うな!彼女は俺が殺させない!だから帰れ!!」
制服のポケットから札を取り出す。
彼も綺羅と戦うことを決めたのだ。
宣言どおり、殺さずに。