Jack the Ripper 06


最近起きた刃物による連続殺人事件。
現場には多少の霊気が残っていた。
なにかしら悪霊が関与している可能性がある。

眼鏡の少年の課題はその霊気を追い、悪霊が関与しているかどうか突き止めることであった。
悪霊のランクが低ければそのまま退魔、または拘束する予定だったのだが、相手はどうやら年季の入った悪霊のようで、しかも死神(大剣を持つ少年がそうであると知っていたわけではないが、悪霊を片付ける人外の存在があると学校で習った)まで出動している。

もしかしたらでしゃばった行為なのかもしれない。
しかし、少女を殺させるわけにはいかない。

「オン」
札に込められていた霊力が解放され、綺羅へと向かう。
少年の大剣を受け止めていたために避けるのが遅れ、綺羅の右足がもやのような形状の霊力に捕らえられる。

「何するの!!」
綺羅は怒っているようだが、「殺す」という言葉は出てこず、瞳の狂気もいくらか収まっているようだった。
嘉凜がいることがそれをとどめているのだろう。


"何故攻撃しないんだ?"
綺羅の脳裏に声が浮かぶ。
「だって嘉凜が見てる!」
即答する。
"あの子のことなんかどーでもいいじゃん?"
あの子とは嘉凜のことである。
「よくない!」
"ふーん邪魔だから殺しちゃえばいいじゃん。"
「邪魔じゃない!」
"へ〜。本当に?あの子にむかついたことないの?"
「え‥それは」
"あるんでしょ?
君がだめなら僕が殺ってあげる。"

綺羅は少年の大剣を避け、その勢いで前に飛び出した。
眼鏡の少年の脇をすり抜け、嘉凜にナイフを突き出した。


「綺羅‥。」
嘉凛の呟きがこぼれた。
ナイフは彼女を貫かなかった。
綺羅の左手が右手首をしっかりと掴んでいた。
右手はいまだ刺そうとしており、両腕が震えている。
確かに嘉凜は私より頭いいし女の子らしいし綺麗だし‥だけど
「違うもん。嘉凜はむかつかないもん。」

綺羅とナイフからオーラが見え始めた。
「!?」
少年二人は駆け出した。
一人はオーラの主を斬るために。もう一人は嘉凜を綺羅から遠ざけるために。

少年が振るった大剣をオーラが絡めとる。
嘉凜の方にも伸びてくるそれは、眼鏡の少年が再び放った式神のバリアに阻まれた。
"んじゃこいつら。邪魔したこいつらは?"
「駄目だよ、嘉凜の前だもん。」
オーラから声が聞こえる。
綺羅は声の主と話していた。
少年が大剣にまとわりつくオーラを振りほどいた。
"んじゃ、しょーがない。"
綺羅を取り巻いていたオーラが再び彼女の中へ戻っていった。
「…相手してやる。」
綺羅は大剣を持つ少年に向きなおった。
しかしその声は少女のそれではなく、青年のものだった。

少年の返事を待たず(といっても無言だったが)綺羅が弾かれるように跳び出す。
しかしナイフの素早い突きは、大剣に払われるのであった。

「どういう事‥」
「…」
嘉凛の問いに、彼女を守る式神は何も答えない。
二人の戦いは熾烈だが確実に綺羅が押されている。
嘉凛は式神を押しのけて思わず駆け出した。

「やめて!」
戦う二人の間に割り込む。
何故戦っているのかなんてわからない。
ただ止めたい。
それだけだった。
二人の刃が止まる。

少年の顔には驚きしかなかった。
しかし綺羅の顔は驚きと怒りに歪む。
「任せる。」
少年が嘉凛、いや、彼女の背中に向かって言った。
「てめぇ‥!!」
汚い言葉を発し、綺羅が後ろに下がる。
その時、嘉凜の後ろ、何も無いところから一人の男性が現れた。
男性が綺羅に追い付く。
「…っ」
苦し紛れに刃を突き出すが、逆に手首を掴まれる。
「久しぶりだな、ジャック。」
半透明の男は言った。