Jack the Ripper 07


xxxx年 ロンドン


ここ最近、殺人事件が連続でおきている。
被害者は娼婦ばかり。
連続というには少々時間があいているが、手口から同一犯だと言われている。
警察が総力をあげて探しているが未だ見つからず。
犯人の名で声明が警察に届いたとの話もある。

医師は外を歩いていた。
往診の帰りだ。
この季節は霧が多い。

早く、帰ろう。
そう思い、歩調を速めた。
この道をまっすぐ行って右に曲がれば家に着く。

ふと、悲鳴が聞こえた。

歩調をさらに速め、走りだす。
悲鳴の方向へと。


悲鳴の発信元は橋の上だった。
しかし、時すでに遅し。
そこにはバラバラにされた女。
そして、その側にしゃがみ込んでいる男。
「どうした?」
医師は男に問い掛ける。
「違う‥俺じゃ‥でも‥殺し…」
支離滅裂な言葉を紡いでいる。

そばにはナイフ。
そして
"君がやったんじゃないか。楽しそうに、笑いながら。"
語りかける霊。

霊に唆されたか。
医師はそう予測をする。
「おい。」
「っ!!俺じゃない! 俺じゃないんだあぁぁぁ!!!」
男は裏返った声で叫び、ナイフを拾うと襲い掛かってきた。
「くっ。」
なんとかかわせたものの、袖に亀裂が走った
。 "あはっはっ!がんばー。"
霊の方は女の死体の横で呑気に笑っている。


男はただ腕を滅茶苦茶に振り下ろしているだけだ。
すきも大きく、ナイフは右手のみ。
握った左手を振り下ろした時にそれを受け止め、壁に向かって男を投げとばした。
男は壁にぶつかり、おとなしくなった。
「‥一連の事件の犯人はお前か。」
霊に顔を向ける。
"あれ?僕のこと見えんの。"
霊がくすりと笑う。
「まぁいいや。大当り。」

「ルーよ。彼を裁く力を我に。」
私の手に光が集まる。
「おぉ?」
光の槍状に変え、霊目掛けてそれをとばす。
それは霊の頬をかすめ、後ろの壁へと刺さる。
わざと当てなかったが、霊はよけなかった。
"懐かしい術だ。"
刺さった槍はしばらく霊の顔を照らし、空気にとけた。
「懐かしい?」
"そう。"
彼の手にも光が集まる。
私と同じ系統の術。
"まさか後輩に会えるとはね。"
光の槍が私に向かって飛んでくる。
霊力を手に込め、槍を相殺する。
"ひゅう。‥これはちょっと本気だすかな。"
霊の手に一本の杖が握られ、深緑のローブが纏われた。

光が鼠のように地を跳ぶ。
それに同じ光をぶつけて相殺する。
霧によって視界は悪いが霊を感じるにあたって問題はない。
今橋の上ということがわかればそれでいい。

霊の腹に拳を打ち込む。
"ぐっ!"
反動を利用して間合いを取ろうとする霊を逃がさまいと、光の格子を霊の後ろに展開させ、そこに霊を絡めとる。
"‥っ、テメ‥!!"
「ルー…」
光の神の加護を得、渾身の力を霊に叩き込む。
"…"
霊がその場に崩れ落ちる。
が、おかしい。
消滅しないのだ。
なぜだ?力が足りなかったのか?

「っあああぁあぁぁっ!!!!」
叫び声が後ろから聞こえた。
振り返ると先ほどの男がナイフをふりかざし襲い掛かってきた。
「なっ?」
相手の腕をとるが、戦いの疲労のため、あまり力が入らない。
男は私を橋から落とそうと押してくる。
橋には手摺りがなく、私たちはそのギリギリのところでもみあっていた。

"って───っ"
霊が不意に起き上がる。
「!?」
注意が反らされたときに男に押され、足を踏み外した。



遥か下で大きな音がした。
男が下の水面に到着したのだろう。
私は橋の欄干に右手をかけてぶらさがっている状態だった。
霊力・体力ともに消費してしまったせいで、落ちるのも時間の問題だった。

"あーそう言えば、僕死の神とちょっとゲームして、勝ったからしばらくあっち行けないんだ。残念だったね。"
霊が私を見下ろして言う。
その手に光が集っていく。
私を確実に殺すつもりらしい。
術を発動するには少なからず時間がいる。
私は自由である左手に力を集中させ、神の名を呟き、呪文を唱えた。
"?"
霊の放とうとする術が糸のようにほどけていく。
そこから霊の手も同じく、糸の様にほどけていく。
ほどけた糸は私の左手、男から奪ったナイフへと入っていった。
こんな霊を放っておくわけにはいかない。
地獄に送れないのならば…
"封印だって!?まだ んな力がっ!ちっくしょおおぉぉぉ…‥"
彼の身体がすべてほどけ、それがすべてナイフへとおさまるにつれ、霊の声も消えた。
とたんに右手の力が抜け、橋から外れてしまった。
普段使わない術を使いすぎた。
川に到達する前に意識が遠退いていく…


翌日、川で医者の死体が発見された。死因は水死だった。