Jack the Ripper 08


"てめぇっ、あの時の‥!!"
"あぁ、久しぶりだな。"
返事に続き、男が呪文を唱える。
"っ‥くあっ"
べりべりと、皮を剥がすような音と共に青年の霊が綺羅の魂から剥がされ、綺羅の頭上にその上半身を現した。
"また封印するつもりかっ!?"
「あぁ。」
青年の霊へと少年が向かう。
防御するにも避けるにも、男の霊に腕をつかまれ、術でダメージを与えられているため不可能だ。
"俺はっ、死の神と契約したんだぞっ!"
裏声交じりに叫ぶ。
「お前は遊びすぎた。その清算の時が来たんだ。」
少年が大剣でジャックの胴を斬った。

上下に分かれたジャックの体が再びナイフへと戻される。
一回目の封印と同じく、体の末端から、断面から、ほどけていく。

"っっざけんなあぁっ!!"
「安心しろ。契約どおり煉獄へは送らない。別の世界でしごいてもらう。」
死神が言い放つ。
"‥‥‥‥‥‥!!!"
声にならない叫びを上げ、霊はナイフへと封印された。

「渡せ。」
少年は持っていた大剣を消すと、綺羅に向かってそう言った。
綺羅はいまだ握っていたナイフを捨てるかのように手放した。
ナイフは地面に落ち、カランと乾いた音が鳴った。
少年はそれを拾いあげると、消えてしまった。

二人は何がおきたのかわからず、呆然としてその場を凝視していた。

「えー…と、俺も帰るけど、お前らはー、大丈夫か?」
見兼ねて眼鏡の少年が話し掛ける。

「今のっ、何!?」
「何だったんですか…今の‥」
二人は同時に眼鏡の少年の方を向き、同じようなことを同時に話した。
「んー…一種の心霊現象ってとこだな。家に帰ってゆっくり休めよな。じきに忘れるから。日記とか書くなよ?」
とりあえず簡単な注意をして二人を家まで送った。





眼鏡の少年は報告書とにらめっこしていた。
ジャックの事件に関して書いたものは書いた。
しかし、自分はほとんど何もしていない。
否、できていない。
男の霊だけの動きを止めるために放った霊力も効をそうさず、意味のない行動となってしまった。

「情けねーなぁ」

報告書相手にそう呟いた。


嘉凜は日記を開いた。
「書くなよ」とは言われたものの、日課であるためについ、開いてしまったのだ。
何を書くなと言われたかというと……
「今日、何があったっけ?」
何かあったことはわかる。
しかし、それが何だったのか鮮明には思い出せなかった。


煉獄関連のことは記憶に残りにくいようになっている。
きっと今頃綺羅も忘れているだろう。













題名の通り「切り裂きジャック」をモチーフとして書いたお話です。
ジャックさん、最初の設定はただの憑依霊だったのに、ルー(ケルトの太陽神)の力なんか借りちゃってるし;;
嘉凜と綺羅を主人公にして始まったわけですが…途中で微妙に主役変更してるし;;
携帯サイトにずっと置いていた話ですが、PCサイトにやっと移行できました。

長い話でしたが、ここまで読んでくれた人、ありがとうございます。
作成日:2006.09.10
金籠収録:2011.09.04